54. この後も延々と夫は"ナンダカンダ…… ソレデアレデ……"←グダグダ何か必死で話してた。 途中から、私の耳は夫の声をShut Outしてしまった。 私はコウやミーミのこと、畑の作物のこと、次は西島さんにどんな献立を考えてあげようかなとか、沙織さんたちと今度はいつ女子会しようかなとか、気が付いたらあちらでの生活圏のことばかり考えていた。 言うべきことは言った。「じゃ、よ・ろ・し・くぅ !」 私はそのまま息子たちと会わず、帰路に着いた。 ◇ ◇ ◇ ◇ 葵にとって俺の存在は虫ケラのように小さなどうでもいいモノになっていて、正直驚きを隠せなかった。 俺の異性に対する魔力は1mmも葵には効かないらしい。 彼女の前では60才手前の只のクソ親父に過ぎないようだ。 だんだん惨めにも思えてきたが、何とか口達者を自称している俺は妻を言いくるめようと、しゃべりまくった。 はぁ~、疲れた。 葵の目と耳には、俺の姿は映らず声は届かず……だったか! 敗北感が襲ってきた。 彼女はその辺に転がってる石よりも強固と思えるほどでその意志を曲げることなく、帰って行った。 はぁー、参った。 はぁー、疲れた。 ホント、疲れたぁ。 ほんとにぃ、アレ(葵)一体誰だよっ! 俺はテーブルに額を打ちつけ、凹んだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ 姉貴の言ってたことが当たったってわけだ。 参ったわ。 女を舐めるんじゃないって吼えてたけど、ほんと俺葵のこと舐めてかかってたわ。 だが、離婚だけは何としても阻止したい。 理由(わけ)なんか、そんな小難しいことじゃないさ。 愛情がないのに執着するのはおかしいって言われたけど 決めつけんじゃないって、ほんとは声を大にして言いたかった。 俺は、葵を息子たちを……家族を捨てていいと思えるほど醒めているわけじゃないんだからな。 決めつけんなって! 見てくれだけで寄って来る女はいても、精神的に支えてくれるような女がどこにでも転がっているわけじゃないさ。 整理整頓の行き届いた居心地の良い部屋、健康に配慮された献立でできた美味しい食事、子供たちが健全に過ごすことのできる明るくて暖かい家庭、60才を迎えようとする俺に
55. 葵に付き合っている男がいるか興信所に頼むことにしよう。 自分でも最低なことは自覚している。 だが、妻だって以前の妻ではなくなってるんだ。 もし、少しでも怪しい関係の男がいたら男共々金銭的に追い込んで葵が自分の所へ戻って来るしかないようにしむける。 巷の浮気や不倫した女性達の末路はよく見聞きして知っていた。 夫や不倫相手の妻から慰謝料を請求され、挙句は間男(浮気or不倫相手)に捨てられ、必ずといっていいほど生活に困窮して夫に復縁を願い出るのが常で復縁を迫る言葉等、テンプレ化されているほどなのだ。 そう考えが纏まると、葵がどこかの誰かと付き合っていることを願うようにさえなっていた。 だがその一方で、他の男と仲良くしている妻を許せるだろうか?という問題にぶち当たり苦しくなった。 この頃の俺は、妻を散々苦しめてきたことを反省することもできず完全にトチ狂っていたようだ。そんな俺は即日興信所を探し、間もなく契約した。 ◇ ◇ ◇ ◇ 息子たちとは会わずにこちらの我が家に帰って来た。 少し気にしていたのだけれど、丁度というか良いタイミングで長男から連絡が入った。 次男と次の金曜の夜から2泊で私の顔を見に来るとのこと。 モチロン大歓迎。おいでませぇ~だよ。 ふたりなら、丁度良い。 私が仕事の間は家にいてゆっくりするなり、近隣を散策するなりふたりでゆっくり、こちらの素敵な景観を堪能してもらえばいいし、たった2泊とはいえコウやミーミとの生活は楽しんでもらえる自信がある。 本当に彼らとの生活を重ねる度、今まで動物のいない乾いた生活がどうして当たり前のようにできたのかを不思議に思うほど、素晴らしいものだから。 私は生まれ変わったら 農園とか果樹園とか自然と共に…… そして犬や猫たちと一緒に…… 幼少の頃から暮らしているような境遇に巡り逢わせてくださいと今の暮らしを幸せと感じる度に神様にお願いしている。
56. 心待ちにしていた金曜がほどなくして訪れた。 金曜の夕飯は、私が仕事でも作っているピザを息子たちに 振舞った。 仕事の合間に、3枚余分に焼かせてもらっていたので 息子たちと一緒に、自宅に帰るとすぐにオーブンに入れるだけで すぐに3人でピザを堪能することができた。 「かあさん、智也ずっと片思いしてた子に告白したけど 振られて、コイツ元気なくしてしまってさ。 それで気分転換も兼ねてかあさん家へ来たってわけ!」 「兄貴、改めて言われてオレ凹むわぁ~! オレの恋愛運は親父が根こそぎオレの分持っていってん だよ、ゼッタイ! 親父の子だってのに、どーしてこんなにモテないんだ?」 「それっ、、俺もほぼおまいと同じだから。 スッゲェー、お前の気持ち、言いたいこと分かるわ、マジで!」 「何度かごはん食べに行って、コンサートへも行ったりしてたから 脈有だっと思ってたんだけどなぁ~。 改まってちゃんとした交際を申し込んだから、他に気になる人が いるからごめんなさいって言われた」 『そっか、残念だったね。 だけど、女子と一緒にごはん行ったり、コンサートに行ったことは 智の経験値になってるし、無駄なことじゃなかったと思う……。 交際申し込んだこともね。 お父さんのモテ方が、異常なのよ。比べることない。 同じ血が流れてても、お父さんと違って貴方たちは女の子にモテ ないのかもしれないけど、ちっとも悲観することないのよ? この世でツガイになれる相手はたったひとりなんだから。 ひとり、そう、1人。 愛し、愛してくれる人がいたらいいの。 大勢にモテる必要なんて、ちっともない。 そしてね、人が皆がみんな、今生でそのたったひとりの人に 出会うことができるとは限らないっていうこともね、 知っておいてほしいの。 自分の好きな人が自分を見てくれないってこともあると思う。 好きな人と結ばれることのできる人、残念なことにできない人も いる。 いろんな条件の中で折り合いをつけながら生きていくの。 もちろん、逆もあるしね。 いくら好いてもらっても、応えられないってことも あるかもしれない』
57. こんな話を聞いたことがあるの。 研究職のA夫さんは、大学、大学院そして就職してからも 周りは男ばかりの環境の上、研究熱心で仕事一筋。 男女の色恋事にはトンと疎い人でね、結局恋愛での御縁は なくって親の勧める女性とお見合いして結婚したの。 真面目な人でね、余所の女性に余所見することもなく奥さんと 3人の娘さんたちを育て上げ、嫁に出した後も今まで通り仕事から 帰って来ると夜遅くまで書斎に籠もって研究のための文献を読んだり する日々で。 特に奥さんを喜ばすようなことを形や言葉に出してすることもなく 結婚後、そうしてきたように日々を粛々と過ごしていたのね。 子育ても専業の奥さんにまかせっきりで、典型的な日本の昭和頃 までの父親っていう感じできてて。 だけど、奥さんの子育てや日々の暮らしの中でのことには、いちいち 文句を言ったりして奥さんを不快にさせたりはしてなかったの でしょうね。 そして、やさしさもあったのだと思う。 だって、そのA夫さんの奥さんはね…… 旦那さんのことをとっても愛していたから。 ある夜のこと、A夫さんがいつものように書斎に籠もって研究のための 勉強をしていたら、お茶を持ってきた奥さんがお茶を机の上に 置くと同時にA夫さんの耳元で小さな声で『愛してる』って おっしゃったんだって。 恐らくいきなりの言葉に旦那さんの耳には--------------------------------------------------------アイシテル....ン? Aishiteru...Un? あいしてる...愛してるぅ? ホント? キキマチガエジャナイヨネ?--------------------------------------------------------だったんじゃないだろうか! 奥さんから告白された『愛してる』の言葉をどう受け止めれば いいのか、おたおたしたみたいだったから。 自分たちは大恋愛の末に結婚したわけでもないし、今でも週に2度ほど ある夫婦生活でも、互いに愛してるなどと言葉を交わしたことは 一度もなかったはず。 どういうことなんだ、これは? 妻の真意は? 言葉で伝えられたA夫さんは、オロオロ・ドキドキ。 奥さんの真意がどこに
58.「うん、かあさんの言ってる意味すごく分かる。 僕もそのたったひとりに早く出会えると いいんだけどね」 『出会えるといいわねぇ~。お兄ちゃんもね。 お付き合いすることに関しては難しいことなんてひとつもないの。 自分をさらけ出せて、相手のことも受け入れて互いが誠実に 向き合えばいいだけのこと。 自分のことしか考えられなくなると、ふたりの関係は 終わっちゃうからね。 それとね、良い出会いがなくても、焦らなくていいのよ。 どうしても結婚しなきゃいけないなんてコトでもないんだし。 少し寂しいかもしれないけど、ぼちぼち自分のペースで 人生を歩んでいけばいいと思うわ。』 「「かあさんと久し振りに話できて良かったよ」」 口を揃えてふたりが言った。 「私も。いつかこういう話、しておきたかったから」 息子たちは夫とは真逆のタイプで、片思いばかりでよく 振られるみたいだ。 でも、彼らは若いから、これから……これから。 だけどそんな息子たちを横目にいつかはと思っていたので 今回、私が今まで話したいと思っていたことをちゃんと 伝えることができて良かったと思う。 「かあさん、新しい生活にも慣れて本当に幸せそうだね。 かあさんに離婚を言いだされてから父さん、哀れなもんだよ」 そう、賢也が夫のことを切り出した。「そうなの? 逆だと思ったけどぉ? 大っぴらに行動できて、ウキウキかと思ってた」「表向きはね。いままでと同じように振舞ってはいるけど、何か 精気がないっていうか覇気がないというか。 雰囲気変わったよ、やっぱり。 だいぶ、痛手追ってるんじゃないかなぁ。 まあ、昔と同じようにモテる自分に酔ってるけど60才近いアラ還の 既婚モテ男なんかに近付いてくる女なんて、碌なもんじゃないし 所詮、遊び相手にしかならないんだよ。 仲の良い夫婦なら毎日穏や
59. 「賢也、智也、私ね……愛すべき貴方たちふたりの息子を 授かれたことは本当に私にとって最高のプレゼントだって 思ってる。 だから、夫婦としてお父さんとは上手くいかなかったけど 全てが駄目だったってわけでもなかったと思うの。 今が一番大事だからね、一生懸命前向きに生きるわ。 ここに来るには、ちょっと時間が掛かるけれどいつでも来て。 おいしいモノ作って待ってるから」「ぜひそうする。 ほんと、ここは自然に恵まれていていいところだね。 仕事のことがなかったら、俺もこんなところで暮らしたいよ」 と賢也が言った。 『オレも年とったら、畑してみたい。かあさんがここで 根付いてくれてたら、将来こちらに住む拠点も移しやすそっ。そういう意味でも、かあさん、頑張ってくれよんっ』 と今度は弟の智也が続いて言う。 「西島の父ちゃんがその頃になったら隠居生活に入ってる かもしれんし。譲ってもらえんとも限らんから、おまえ 貯金しっかりしとけっ。」『おっしゃぁ~、お金溜めるべぇ~』 久し振りに会った息子たちはコウやミーミと戯れたり畑へも 一緒に行って野菜を収穫したり、自然を満喫して日曜の午後 帰って行った。 帰ってゆくふたりの背中を見つめ、彼らの行く末が幸多かれと 願わずにはいられなかった。 いつもじゃなくって、瞬間々なんだけどね 幼い頃の息子たちとの日々を思いし懐かしむことがある。 そんな中でも私の荒(すさ)んだ気持ちを解きほぐしてくれた 出来事は私の一生の宝だ。
1.仁科家の住む街は関西圏内のトアル場所仁科貴司 57才 -- 一級建築士[事務所所長-社員5名] 副業でスナック経営 趣味はバイク 仁科葵 50才 -----専業+時々短期アルバイター通訳の 有資格者 趣味はパッチワーク 仁科賢也 25才 ----会社員 真面目なリーマン 仁科智也 22才 ----会社員 朴訥リーマン 西島薫 52才 ---- 小児科医 息子達もお世話になった。 小野寺裕子 36才 独身----貴司の浮気相手のクソビッチ 岡本沙織 55才 キャンプ場のオーナー (犬、猫達をたくさん世話している。)コウ--8才の雄猫---身体にマヒがある、仔猫育て上手な イクメンくん 1. 私はカスミソウの花が好きだ。 最近になって花言葉を知った。 春から初夏にかけて咲くと言われているカスミソウ。 ピンクの花言葉は「切なる願い=My earnest wish」と いうのだそうだ。 ずっとカスミソウには白色しかないと思い込んで いたのだけれど花言葉を知って、ピンクのカスミソウが 私の心の中を占めるようになっていった。 ○○○○年4月某日のこと…… 「お集まりの皆さん、お忙しい中お越しいただき ありがとうございます。 今月の4月9日が我々夫婦の26回目の結婚記念日だった のですがまんま9日にとはいかず、少し日程がズレて しまいましたけれど、記念日と併せて皆さんに発表して おきたいことがありまして お声をかけさせていただいた次第です。」 ♡貴司くぅ~ん、前置きはその位で早く本題 お願い~っ! ♡ 夫のバイク仲間が野次を入れた。-夫が独身だった頃からの顔が6つほどチラホラ。 所謂遊び友達で悪友というヤツだ。 副業でやっているスナックの従業員と本業の設計事務所の 社員の顔もある。 ご近所で子供を介して仲良くしているママ友ご夫婦の顔も 見つけた。 3組ご夫婦で揃って来てくれたみたい。 夫の社交力というものを改めて再認識し
2. 「今まで仕事も二足のわらじで一生懸命やってきましたが、趣味や遊びも 負けないぐらい時間を費やしヤンチャなこともしてきたわけですが、60才を目前に目が醒めまして……。」 『覚醒したのねぇ~ン』←-- ヤンチャ仲間たちのクスクス笑い「今後は家庭第一家族第一、そして私の最愛の妻第一をモットーに 今までの感謝と共に反省も込めて妻を大切にしていくことをここに誓います」 夫は神妙な面持ちでそれから笑顔を周りの人たちに向けて声高に再度 『最愛の妻だけに心を捧げて大切にしていくことを誓います』と言葉を結んだ。 とまれ……私は事情が飲み込めず、頭の中は真っ白。『えーっ』 けれど辛うじて周囲の人たちに違和感を持たれない程度に 口角を上げ、微笑みを湛えた表情で拍手喝采を受け止めた。 『アホくさっ』 夫が私の方を見たように視界の端で捉えたけれど 気付かぬ振りで私は息子たちに視線を向けた。 長男も次男も辛うじて周囲に溶け込んだ表情を纏って いたけれど、その目には明らかに私と同様の困惑が 浮かんでいたのを私は見逃さなかった。 長年、最も夫を間近で見て来た者だけが持ちうる 苦悩や悲しみ裏切り、様々な感情の混じり合った乾いた瞳……6つの瞳に喜びの色はなかった。『何だ、ソレっ』
59. 「賢也、智也、私ね……愛すべき貴方たちふたりの息子を 授かれたことは本当に私にとって最高のプレゼントだって 思ってる。 だから、夫婦としてお父さんとは上手くいかなかったけど 全てが駄目だったってわけでもなかったと思うの。 今が一番大事だからね、一生懸命前向きに生きるわ。 ここに来るには、ちょっと時間が掛かるけれどいつでも来て。 おいしいモノ作って待ってるから」「ぜひそうする。 ほんと、ここは自然に恵まれていていいところだね。 仕事のことがなかったら、俺もこんなところで暮らしたいよ」 と賢也が言った。 『オレも年とったら、畑してみたい。かあさんがここで 根付いてくれてたら、将来こちらに住む拠点も移しやすそっ。そういう意味でも、かあさん、頑張ってくれよんっ』 と今度は弟の智也が続いて言う。 「西島の父ちゃんがその頃になったら隠居生活に入ってる かもしれんし。譲ってもらえんとも限らんから、おまえ 貯金しっかりしとけっ。」『おっしゃぁ~、お金溜めるべぇ~』 久し振りに会った息子たちはコウやミーミと戯れたり畑へも 一緒に行って野菜を収穫したり、自然を満喫して日曜の午後 帰って行った。 帰ってゆくふたりの背中を見つめ、彼らの行く末が幸多かれと 願わずにはいられなかった。 いつもじゃなくって、瞬間々なんだけどね 幼い頃の息子たちとの日々を思いし懐かしむことがある。 そんな中でも私の荒(すさ)んだ気持ちを解きほぐしてくれた 出来事は私の一生の宝だ。
58.「うん、かあさんの言ってる意味すごく分かる。 僕もそのたったひとりに早く出会えると いいんだけどね」 『出会えるといいわねぇ~。お兄ちゃんもね。 お付き合いすることに関しては難しいことなんてひとつもないの。 自分をさらけ出せて、相手のことも受け入れて互いが誠実に 向き合えばいいだけのこと。 自分のことしか考えられなくなると、ふたりの関係は 終わっちゃうからね。 それとね、良い出会いがなくても、焦らなくていいのよ。 どうしても結婚しなきゃいけないなんてコトでもないんだし。 少し寂しいかもしれないけど、ぼちぼち自分のペースで 人生を歩んでいけばいいと思うわ。』 「「かあさんと久し振りに話できて良かったよ」」 口を揃えてふたりが言った。 「私も。いつかこういう話、しておきたかったから」 息子たちは夫とは真逆のタイプで、片思いばかりでよく 振られるみたいだ。 でも、彼らは若いから、これから……これから。 だけどそんな息子たちを横目にいつかはと思っていたので 今回、私が今まで話したいと思っていたことをちゃんと 伝えることができて良かったと思う。 「かあさん、新しい生活にも慣れて本当に幸せそうだね。 かあさんに離婚を言いだされてから父さん、哀れなもんだよ」 そう、賢也が夫のことを切り出した。「そうなの? 逆だと思ったけどぉ? 大っぴらに行動できて、ウキウキかと思ってた」「表向きはね。いままでと同じように振舞ってはいるけど、何か 精気がないっていうか覇気がないというか。 雰囲気変わったよ、やっぱり。 だいぶ、痛手追ってるんじゃないかなぁ。 まあ、昔と同じようにモテる自分に酔ってるけど60才近いアラ還の 既婚モテ男なんかに近付いてくる女なんて、碌なもんじゃないし 所詮、遊び相手にしかならないんだよ。 仲の良い夫婦なら毎日穏や
57. こんな話を聞いたことがあるの。 研究職のA夫さんは、大学、大学院そして就職してからも 周りは男ばかりの環境の上、研究熱心で仕事一筋。 男女の色恋事にはトンと疎い人でね、結局恋愛での御縁は なくって親の勧める女性とお見合いして結婚したの。 真面目な人でね、余所の女性に余所見することもなく奥さんと 3人の娘さんたちを育て上げ、嫁に出した後も今まで通り仕事から 帰って来ると夜遅くまで書斎に籠もって研究のための文献を読んだり する日々で。 特に奥さんを喜ばすようなことを形や言葉に出してすることもなく 結婚後、そうしてきたように日々を粛々と過ごしていたのね。 子育ても専業の奥さんにまかせっきりで、典型的な日本の昭和頃 までの父親っていう感じできてて。 だけど、奥さんの子育てや日々の暮らしの中でのことには、いちいち 文句を言ったりして奥さんを不快にさせたりはしてなかったの でしょうね。 そして、やさしさもあったのだと思う。 だって、そのA夫さんの奥さんはね…… 旦那さんのことをとっても愛していたから。 ある夜のこと、A夫さんがいつものように書斎に籠もって研究のための 勉強をしていたら、お茶を持ってきた奥さんがお茶を机の上に 置くと同時にA夫さんの耳元で小さな声で『愛してる』って おっしゃったんだって。 恐らくいきなりの言葉に旦那さんの耳には--------------------------------------------------------アイシテル....ン? Aishiteru...Un? あいしてる...愛してるぅ? ホント? キキマチガエジャナイヨネ?--------------------------------------------------------だったんじゃないだろうか! 奥さんから告白された『愛してる』の言葉をどう受け止めれば いいのか、おたおたしたみたいだったから。 自分たちは大恋愛の末に結婚したわけでもないし、今でも週に2度ほど ある夫婦生活でも、互いに愛してるなどと言葉を交わしたことは 一度もなかったはず。 どういうことなんだ、これは? 妻の真意は? 言葉で伝えられたA夫さんは、オロオロ・ドキドキ。 奥さんの真意がどこに
56. 心待ちにしていた金曜がほどなくして訪れた。 金曜の夕飯は、私が仕事でも作っているピザを息子たちに 振舞った。 仕事の合間に、3枚余分に焼かせてもらっていたので 息子たちと一緒に、自宅に帰るとすぐにオーブンに入れるだけで すぐに3人でピザを堪能することができた。 「かあさん、智也ずっと片思いしてた子に告白したけど 振られて、コイツ元気なくしてしまってさ。 それで気分転換も兼ねてかあさん家へ来たってわけ!」 「兄貴、改めて言われてオレ凹むわぁ~! オレの恋愛運は親父が根こそぎオレの分持っていってん だよ、ゼッタイ! 親父の子だってのに、どーしてこんなにモテないんだ?」 「それっ、、俺もほぼおまいと同じだから。 スッゲェー、お前の気持ち、言いたいこと分かるわ、マジで!」 「何度かごはん食べに行って、コンサートへも行ったりしてたから 脈有だっと思ってたんだけどなぁ~。 改まってちゃんとした交際を申し込んだから、他に気になる人が いるからごめんなさいって言われた」 『そっか、残念だったね。 だけど、女子と一緒にごはん行ったり、コンサートに行ったことは 智の経験値になってるし、無駄なことじゃなかったと思う……。 交際申し込んだこともね。 お父さんのモテ方が、異常なのよ。比べることない。 同じ血が流れてても、お父さんと違って貴方たちは女の子にモテ ないのかもしれないけど、ちっとも悲観することないのよ? この世でツガイになれる相手はたったひとりなんだから。 ひとり、そう、1人。 愛し、愛してくれる人がいたらいいの。 大勢にモテる必要なんて、ちっともない。 そしてね、人が皆がみんな、今生でそのたったひとりの人に 出会うことができるとは限らないっていうこともね、 知っておいてほしいの。 自分の好きな人が自分を見てくれないってこともあると思う。 好きな人と結ばれることのできる人、残念なことにできない人も いる。 いろんな条件の中で折り合いをつけながら生きていくの。 もちろん、逆もあるしね。 いくら好いてもらっても、応えられないってことも あるかもしれない』
55. 葵に付き合っている男がいるか興信所に頼むことにしよう。 自分でも最低なことは自覚している。 だが、妻だって以前の妻ではなくなってるんだ。 もし、少しでも怪しい関係の男がいたら男共々金銭的に追い込んで葵が自分の所へ戻って来るしかないようにしむける。 巷の浮気や不倫した女性達の末路はよく見聞きして知っていた。 夫や不倫相手の妻から慰謝料を請求され、挙句は間男(浮気or不倫相手)に捨てられ、必ずといっていいほど生活に困窮して夫に復縁を願い出るのが常で復縁を迫る言葉等、テンプレ化されているほどなのだ。 そう考えが纏まると、葵がどこかの誰かと付き合っていることを願うようにさえなっていた。 だがその一方で、他の男と仲良くしている妻を許せるだろうか?という問題にぶち当たり苦しくなった。 この頃の俺は、妻を散々苦しめてきたことを反省することもできず完全にトチ狂っていたようだ。そんな俺は即日興信所を探し、間もなく契約した。 ◇ ◇ ◇ ◇ 息子たちとは会わずにこちらの我が家に帰って来た。 少し気にしていたのだけれど、丁度というか良いタイミングで長男から連絡が入った。 次男と次の金曜の夜から2泊で私の顔を見に来るとのこと。 モチロン大歓迎。おいでませぇ~だよ。 ふたりなら、丁度良い。 私が仕事の間は家にいてゆっくりするなり、近隣を散策するなりふたりでゆっくり、こちらの素敵な景観を堪能してもらえばいいし、たった2泊とはいえコウやミーミとの生活は楽しんでもらえる自信がある。 本当に彼らとの生活を重ねる度、今まで動物のいない乾いた生活がどうして当たり前のようにできたのかを不思議に思うほど、素晴らしいものだから。 私は生まれ変わったら 農園とか果樹園とか自然と共に…… そして犬や猫たちと一緒に…… 幼少の頃から暮らしているような境遇に巡り逢わせてくださいと今の暮らしを幸せと感じる度に神様にお願いしている。
54. この後も延々と夫は"ナンダカンダ…… ソレデアレデ……"←グダグダ何か必死で話してた。 途中から、私の耳は夫の声をShut Outしてしまった。 私はコウやミーミのこと、畑の作物のこと、次は西島さんにどんな献立を考えてあげようかなとか、沙織さんたちと今度はいつ女子会しようかなとか、気が付いたらあちらでの生活圏のことばかり考えていた。 言うべきことは言った。「じゃ、よ・ろ・し・くぅ !」 私はそのまま息子たちと会わず、帰路に着いた。 ◇ ◇ ◇ ◇ 葵にとって俺の存在は虫ケラのように小さなどうでもいいモノになっていて、正直驚きを隠せなかった。 俺の異性に対する魔力は1mmも葵には効かないらしい。 彼女の前では60才手前の只のクソ親父に過ぎないようだ。 だんだん惨めにも思えてきたが、何とか口達者を自称している俺は妻を言いくるめようと、しゃべりまくった。 はぁ~、疲れた。 葵の目と耳には、俺の姿は映らず声は届かず……だったか! 敗北感が襲ってきた。 彼女はその辺に転がってる石よりも強固と思えるほどでその意志を曲げることなく、帰って行った。 はぁー、参った。 はぁー、疲れた。 ホント、疲れたぁ。 ほんとにぃ、アレ(葵)一体誰だよっ! 俺はテーブルに額を打ちつけ、凹んだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ 姉貴の言ってたことが当たったってわけだ。 参ったわ。 女を舐めるんじゃないって吼えてたけど、ほんと俺葵のこと舐めてかかってたわ。 だが、離婚だけは何としても阻止したい。 理由(わけ)なんか、そんな小難しいことじゃないさ。 愛情がないのに執着するのはおかしいって言われたけど 決めつけんじゃないって、ほんとは声を大にして言いたかった。 俺は、葵を息子たちを……家族を捨てていいと思えるほど醒めているわけじゃないんだからな。 決めつけんなって! 見てくれだけで寄って来る女はいても、精神的に支えてくれるような女がどこにでも転がっているわけじゃないさ。 整理整頓の行き届いた居心地の良い部屋、健康に配慮された献立でできた美味しい食事、子供たちが健全に過ごすことのできる明るくて暖かい家庭、60才を迎えようとする俺に
53.「あなたとなんてよりを戻したくないの。でも、納得しないから納得できるように条件出してあげてるんじゃないの。 それになんなの? その執着。 愛してもない妻にどうしてそんなに執着するのか意味分かんないわ、全く。 家族、近所の人たち、親戚、知人、友人、もうあなたがしてきたことなんて知ってるんだし、私があなたの元を去ったからって誰も驚きやしないし、あなたを責めたりだってしないんじゃない? 25年だよ? 皆、遅いくらいだぜとは思うかもしれないけど。 あなたは何も気にすることはない。 私こそだよ。この25年間、皆からたぶん可哀想な奥さんって思われてきて、本当に私は気の毒な女なんだよ? あなたも私もナーンも失くすモノなんてないんだから。別々の人生を歩んだらいいのよ。分かった? 結婚直後から始まった数々の女性との浮気の証拠、流石に全部とはいえないけど、その手のプロに頼んでとった何人分かの証拠と最近のモノで言えば小野寺さんのモノも、ばっちり証拠を掴んでるから慰謝料も請求します。 話し合いが拗れた場合は弁護士を入れて裁判も辞さないつもり。 本気なのでちゃんと考えてください。 昔のモノは裁判で効力ないと思うけれどまぁ、裁判官の心証に訴えるのに少しは役立つと思うから、情報として一応提出するつもり。 あなたが私たち家族にどんなに非常で残酷な夫であったかが白日の下に曝されるわね。 あなたがほんの小さなことと考えていることを周りの人たちにJudgeしてもらえる機会でもあるわけ」 「葵、君の忌憚のない意見を聞く今のいままで本当にそこまで君を傷つけ悲しい思いをさせていたことに気付いてなかった。 ほんとにごめん、すまない。 昨年の宣言は本心だ。良い夫になる。 もっともっと君につくす。 だから、結論をそう急がず時間をくれないか。 よく話し合おう! 何も今からシングルになって働いて苦労しなくてもいいじゃないか。 今のままなら、経済的にも精神的にも俺が守ってやれる。 50才を過ぎてアラ還になって仕事するって思ってるより大変なことだ。」「貴司さん、どーしてそれを25年前に、まだまだ私たちが若かった頃に言ってくれなかったの? 聞きたいのは私のほう。 どうして60才間近になってからなの? 自分の老後の保
52. あの日から、あなたのことを夫だと思ったことはない 愛情もなかったのだと、言い切った。 愛情もなかった……ほんとに? あったかもしれないし、今公言したようになかったかもしれない。 もうそんなことはどうでもいい、瑣末なことだ。 今の私には。 何より夫を傷付けてやりたいのだ。 コテンパンに! だから、愛情もなかった……でよいのだ。 「あなたがずーっと、私以外に余所の女と付き合ってたの25年間だからぁ、 少なくとも25年は待っててもらわないと無理。 今からだと軽く80才ちょい』越えになるから、お互い元気で ないと又、一緒に暮らせないわよ。 健康のためにちゃんと食事の献立に気を付けて長生きして下さい』 「それ、本気言ってるのか?」「本気もほんき。 だけど、どうせ待てないでしょうし……って、待たなくていいから。 あなたなら、今だってその辺歩いてるだけで好きすきぃ~ 付き合ってぇ~抱いてぇ~って、女が何人も出てきそうだし 若い子と誰に遠慮することなく、欲にまみれた人生をこれからも 続けていけばっ……!』 「待つよ、ずっと待つ。 君が俺の家に帰ってくれるまで80才までだって待つさ」 『Non,Non. ただ待つだけじゃダメっ! 清い身体で待ってないとね。病院へ行って男性機能使えないように手術してきてよ。できる? あなたのようなヤリマンの浮気男の代表みたいな人には 到底無理でしょ? これまで25年間、妻ひとりでは満足できず1000人切りまでかは 知らないけどそれだけ欲に貪欲だったんだから、死ぬよりつらい ことかもね。 できる? できないでしょ? だから、待たなくていいのよ。 この条件冗談で言ってるわけじゃないから。 この申し出の意味をちゃんと今理解出来てないと思うから 言っとく。 万が一、あなたと復縁したとしても私はあなたとSEXは しなくてもよいっていう意味に必然的になるよね。 復縁しても私は自由に生きるわよ。 何一つあなたに文句は言わせない。 80才にもなって流石に余所の男とSEX出来るとは思わないけど、 あなたへの嫌がらせでハッスルしちゃうかも。ハハハっ」 夫は途中から何も言えず、固まって私の破天荒な話を聞いていた。 面白いぐらい、顔を歪ま
51.「もしかして、浮気してたってこの俺さまだぞ。妻からもずーっと愛され続けてきたんだぞっ、なぁ~んて思ってた? 余所の女たちからモテモテの俺さまから離れられないだろ惚れた者負け……ほれほれっ、文句言わずこの俺さまにかしずいてりゃあいいんだ、とか。あなたの考えはそんなトコだったンじゃない?『そんなわけないっしょ』 ごめーんっ、それがそうでもなかったの。 あなたは、ずーっと昔に私のATMになってたのぉ。 好き勝手してきたのに突然の宣言。 ほんとっ、あなたってズルいよね。 周りの浮気を重ねた不良仲間が次々奥さんから熟年離婚されるのを間の当たりにして、突然今から妻だけに…… 最愛の妻だけに心を捧げて大切にしてゆくことを誓いますって、私や息子たち、義両親、私両親、友人知人集めて宣言するんだもん。 思わず咽(むせ)た。『なぁ~に言っちゃってんのって』 最愛の妻って? 『誰のことよ』 私思わず誰のことなんだって後ろを振り向いたよ。 それ、私のことじゃないわよねって。 あなたにいつから最愛の妻がいたの? 一度聞いてみたかったのよね。 ねぇ~、その最愛の妻って誰のこと? そんな人、いたの? 」「えっ、何を……君のことだよ、決まってるだろ葵のことに決まってるだろ? 何言ってるんだよ。 最愛の妻は葵、君のことだ。 君しかいない、昔も今も、」俺の声は震えていた。言いながら、心もとなかった。 だんだん、自分の思ってたこと今言ってることに自信がなくなっていた。「君がそれほど傷ついていたなんて……すまない。反省している だから、敢えて皆の前であんなふうに宣言もした。こっちに帰って来てくれないか! 今まで通り親子4人で暮らそう。 君の言うことには耳を傾け、大切にしていく。 家族旅行もたくさんして思い出作りもしていこう! 仕事もボチボチ減らしていって、君や家族と過ごす時間を増やしていくつもりだから。考え直してほしい」